PFP モデル・計算モード (calc_mode)
概要
PFP (Preferred Potential) は Matlantis のコアとなる、グラフニューラルネットワークベースの汎用原子間ポテンシャルです。 PFP は複数の汎関数に基づく計算モード (calc_mode) を提供しており、対象系の性質や用途に応じて適切なモードを選択する必要があります。 計算モードは結果の精度と物理的妥当性を大きく左右する、最も重要な設定の 1 つです。
calc_mode の選択フローチャート
計算対象は?
+-- 遷移金属酸化物・強相関系 -> PBE_U (分散力が重要なら PBE_U_PLUS_D3)
+-- 分子結晶・液体・吸着系
| +-- 実験値との定量比較が重要 -> R2SCAN_PLUS_D3
| +-- 定性的・スクリーニング用途 -> PBE_PLUS_D3
+-- バルク結晶の形成エネルギー
| +-- 実験値と比較 -> R2SCAN
| +-- Materials Project と比較 -> PBE (または PBE_U)
+-- 有機分子系
| +-- 単分子系、9元素のみ (H,C,N,O,F,P,S,Cl,Br) かつDFT結果の再現用途-> WB97XD
| +-- それ以外 -> R2SCAN_PLUS_D3
+-- 迷ったとき -> PBE (分散力が重要なら PBE_PLUS_D3、遷移金属酸化物を含むなら PBE_U_PLUS_D3)
モード一覧
| モード | 汎関数 | 対応元素 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
PBE (旧: CRYSTAL_U0) |
GGA-PBE | 96元素(v3.0.0 ~ v6.0.0では72元素, v2.0.0では55元素) | バルク系で汎用(v8.0.0以前でデフォルト) |
PBE_U (旧: CRYSTAL) |
GGA-PBE + Hubbard U | 96元素(v3.0.0 ~ v6.0.0では72元素, v2.0.0では55元素) | 遷移金属酸化物・強相関系 |
PBE_PLUS_D3 (旧: CRYSTAL_U0_PLUS_D3) |
GGA-PBE + D3分散力補正 | 96元素(v3.0.0 ~ v6.0.0では72元素, v2.0.0では55元素) | 分子結晶、液体(定性)、複合系 |
PBE_U_PLUS_D3 (旧: CRYSTAL_PLUS_D3) |
GGA-PBE + U + D3 | 96元素(v3.0.0 ~ v6.0.0では72元素, v2.0.0では55元素) | 遷移金属酸化物+有機配位子 |
R2SCAN |
meta-GGA R2SCAN | 96元素(v8.0.0では72元素, v7.0.0以前では使用不可) | バルク系で汎用・高精度(v9.0.0でデフォルト) |
R2SCAN_PLUS_D3 |
meta-GGA R2SCAN + D3 | 96元素(v8.0.0では72元素, v7.0.0以前では使用不可) | 汎用・高精度(v8.0.0では定量評価) |
WB97XD (旧: MOLECULE) |
hybrid omegaB97X-D | 9元素のみ | 有機分子単分子(非推奨、DFT結果の再現用途のみ) |
バージョン (model_version)
PFP には複数のモデルバージョンがあり、Estimator(model_version=...) で指定します。
- バージョンは数値が大きいほど新しい版です(一般的なパッケージのセマンティックバージョニングと同じ。例: v9.0.0 > v8.0.0)。
- 新しいバージョンほど学習データが多く、より広い物質系に対して汎用的かつ高精度になります。特別な理由(過去の計算の再現など)がなければ最新版の使用を推奨します。
- 現時点の最新版は v9.0.0(2026/05/26 リリース、デフォルト calc_mode は R2SCAN)です。
- バージョンは
model_version="v9.0.0"のように明示的に固定して指定することを推奨します。model_version="latest"は使用しないでください。将来 PFP がアップデートされた際に解決される版が変わり、計算結果や挙動が予期せず変化する可能性があるためです(再現性の観点からも明示指定が安全)。 - 利用可能なバージョンの確認:
estimator.available_models - 各バージョンの対応元素・デフォルト calc_mode・リリース時期の詳細は guidebook の PFP Versions (
matlantis/references/guidebook/pfp_versions.md) を参照。
対応元素
- PBE/PBE_U/R2SCAN: 最大96元素 (H〜Cm)、バージョン依存
- PBE_UのHubbard U補正の対象: 特定の遷移金属(V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Mo, Wの9元素)
- WB97XD: 9元素のみ (H, C, N, O, F, P, S, Cl, Br)
- 実行時確認:
estimator.supported_elements()
PFP の適用範囲外
PFP は以下を扱えません:
- 励起状態
- 帯電系
- 電子物性 (HOMO/LUMO, バンドギャップ)
- 粗視化モデル
- 磁気秩序 (Hubbard U 以上の精度)
- Uパラメーター数値の変更(特定のUパラメーターで学習データを収集しているため)