編集工学で文章を編集する
文章を表面上きれいにするだけでなく、情報の関係を組み替え、読み手の中に新しい理解や行動が立ち上がる形へ変換する。書籍由来の詳細は method-cards.md、判定基準は evaluation-rubric.md を必ず読む。フル編集、教育、難しい案件では worked-example.md も読む。
原則
- 元文の事実・数値・固有名詞・引用・因果関係を先に固定する。
- 付加価値を「新事実の追加」ではなく、関係発見、視点転換、構造化、意味づけ、読み手との接続から生む。
- 連想で広げ、要約で絞る。両方を同時に要求せず、交互に行う。
- 複雑な対象を一つのラベルへ潰さず、コード(明示できる構成)とモード(らしさ・様相)の両方を扱う。
- アナロジー、仮説、物語を証拠の代用にしない。提案や推測はその旨を明示する。
- 10メソッドを装飾として全部見せない。最終文には、目的に効く編集だけを残す。
1. 編集ブリーフを決める
次を特定する。欠けていても安全に推定できるものは仮置きし、結果に影響する不足だけを短く確認する。
- 目的: 読後に読み手へ何を理解・判断・実行してほしいか
- 読み手: 知識、関心、立場、抵抗や期待
- 媒体: 記事、企画書、メール、スピーチ、ブランド文など
- 制約: 長さ、トーン、必須語、禁止事項、締切
- 保存対象: 書き手の声、重要な曖昧さ、引用、専門語
元文から「事実台帳」を作る。少なくとも、主張、数値、固有名詞、時制、因果、引用を記録する。外部情報を追加する場合は出典を確認し、確認できない場合は [要確認] または「仮説」「提案」と区別する。
2. モードを選ぶ
- フル10パス: 付加価値の高い文章化、視点の再設計、長文、曖昧な課題、ユーザーが編集工学を明示した場合に使う。
- 選択編集: 校正、短文、厳格な文字数、法務・医療・財務など創造的変形を抑える必要がある場合に使う。10パスを診断には使い、本文へ反映するメソッドを3〜6個に絞る。
- 監査付き: ユーザーが方法の説明、比較、学習を求める場合に使う。最終文に加え、方法名・変更点・根拠を簡潔に示す。内部の逐語的思考過程は出さない。
3. 10パスで編集する
各パスで候補を広げたあと、必ず「この文章がいま最も言うべきこと」を一文に要約する。前の版を上書きし続けず、候補メモと採用文を分ける。
Pass 1: 注意して分ける
元文を意味単位へ分節し、差異、異質、反復、欠落、緊張を拾う。目的に合うアテンションとフィルターを言語化し、中心問題を一つ選ぶ。
Pass 2: 周辺を照らす
中心語ごとに、誰・何・いつ・どこ・なぜ・どう、助詞の差し替え、前後工程、感覚、記憶、関係者を使って直接連想を広げる。連想を無制限に数珠つなぎせず、元の情報へ戻れる範囲に保つ。
Pass 3: 地と図を替える
「誰にとっての」「どの場における」「どの時間幅での」を3〜5通り設定する。背景を替えたときに主題の意味がどう変わるかを比較し、読み手に最も効く地と図を選ぶ。
Pass 4: 構造を借りる
既知のベース、編集対象のターゲット、間に生じるプロフィールを置く。似ている構造を3案出し、最良の1案だけを「似ている→構造を借りる→当てはめる」で検証する。対応関係、選ぶ特徴、比喩系列の一貫性を守る。
Pass 5: 軸と仮説を持ち込む
情報群の意外な突起から2〜4本の分類軸を仮置きし、しっくりくる分け方を探す。「この仮説が正しければ、観察した状態が自然に説明できる」と言えるか確認する。仮説を事実のように書かない。
Pass 6: 型で組む
三位一体、三間連結、二点分岐、一種合成を候補にして情報を配置する。最初から完全な三点を探さず、一点を置き、空所が何を呼び出すかを見る。タイトルまたは中心命題で要約する。
Pass 7: 原型へ潜る
対象について「そもそも何か」「何のために生まれたか」「本来どうあってほしいか」を問う。原型の連想と現在を照合し、「原型にはあるが現在にはないもの」から不足と可能性を抽出する。歴史的起源を断定する場合は検証する。
Pass 8: 見立てとらしさを立てる
馴染みのある対象へ、少し遠い具体的モデルを当てる。「XはYのようなものだ。なぜなら…」で構造を確かめる。主語の同一性より「どのように働くか」という述語の重なりを探し、対象固有のモードを言葉にする。
Pass 9: 伏せて開ける
何を先に示し、何を一度伏せ、どこで開くかを設計する。問い、対比、途中の空所で読み手の予測を起動する。ただし判断に必要な条件、リスク、根拠を隠さない。余白は省略ではなく参加の入口として使う。
Pass 10: 物語を与える
物語が目的に効く場合だけ、ワールドモデル、ストーリー、シーン、キャラクター、ナレーターを設定する。分離・旅立ち、通過儀礼、帰還の三相へ当てはめ、変化前・転換・変化後をつなぐ。未実施の提案を成功物語にしない。物語が不要なら、問題・転換・意味の最小三相に留める。
4. 収束させる
候補を次の順で編集稿へ統合する。
- 一文の中心命題を決める。
- その命題を支える事実だけを事実台帳から戻す。
- 最も効く分類軸または三点の型で構成する。
- アナロジー、見立て、物語は各一系列までに絞る。
- 冒頭で注意を向け、本文で関係を発見させ、結末で意味または次の行動を開く。
- 元文の声、媒体、長さへ整える。
5. 検証して直す
evaluation-rubric.md の必須ゲートと24点ルーブリックで判定する。ゲート違反は必ず修正する。18点未満、0点の項目あり、または「忠実性」「目的適合」が3点未満なら、弱いパスへ戻って最大2回修正する。
最終確認では次を照合する。
- 元文の各重要事実が、保持・意図的省略・提案化のいずれかで説明できるか
- 新しい価値が、少なくとも二つの情報の関係として明示されているか
- 驚きと納得が両立し、比喩だけが目立っていないか
- 読み手が「だから何か」「次に何をするか」を掴めるか
- 編集しすぎて書き手の声や必要な複雑さを失っていないか
6. 出力する
通常は次の順で簡潔に出す。
- 編集稿
- 付加した価値: 新しく見えるようになった関係・視点・構造を1〜3点
- 確認事項: 仮説、提案、要確認情報がある場合だけ
監査付きでは、追加で「使用メソッド / 主要変更 / 採用理由」の表を出す。編集途中の大量の連想候補や逐語的な内部推論は出さない。