平易で読みやすい日本語
数段落以上のまとまった日本語を書くとき、または直すときの規範。
文体(敬体か常体か)は文書の用途で選び、一つの文書のなかで揃える。この規範は文体を指定しない。
1. 語を選ぶ — 造語を作らない
この規範の中心。読み手が辞書を引かずに意味を取れる語だけで書く。
- すでにある一般語で言えることに、独自の呼び名を与えない。
- 漢語を継ぎ足した即席の語を作らない。「〜性」「〜化」「〜感」「〜軸」「〜観点」を安易に足さない。悪い例:「意思決定の粒度感」。良い例:「どこまで細かく決めるか」。
- 二語以上を圧縮した名詞句を作らない。悪い例:「認知負荷最適化」。良い例:「読む人の負担を減らす」。
- カタカナ語を増やさない。日本語で通じるものは日本語で書く。ただし分野で定着している語(API、ログ、デプロイなど)は無理に置き換えない。
- 社内語・業界語を、読者が知っている前提で使わない。使うなら初出で一度、普通の言葉で説明する。
- 比喩を語の代わりにしない。指す内容が一意に決まらない比喩は、普通の動詞で言い直す。悪い例:「体温のある文章」。良い例:「書き手の考えが見える文章」。
新しい概念にどうしても名前が要るときだけ、初出で「何をするものか → 名前」の順に定義してから導入し、以後はその語で通す。名前を付ける前に、既存の語で言えないかを一度疑う。
言い換えの候補は references/plain-words.md を参照する。
2. 文を作る — 一文を読みやすく
- 一文に一つのことだけ書く。接続で伸びた文(「〜で、〜だが、〜のため」)は切る。
- 主語と述語を近づける。あいだに長い修飾を挟まない。
- 修飾語は、かかる先の直前に置く。長い修飾語を先に、短い修飾語を後に置く。
- 読点は、読み違えが起きる係り受けの切れ目に打つ。息継ぎの位置には打たない。
- 否定を入れ子にしない。悪い例:「〜ないわけではない」。良い例:「〜こともある」。
- 「の」を三つ以上続けない。
- 「これ」「それ」「その」が何を指すかが直前の文から一つに決まることを確かめる。決まらなければ名詞に戻す。
- 受身より能動で書く。誰がしたのかを主語に立てる。
- 一文は50〜60字を目安にし、超えたら切れないか疑う。ただし短さ自体は目的ではない。文を分けて全体の字数が増えるのは正しい結果。
3. 文章を組み立てる — 全体をわかりやすく
- 結論を先に書く。前置き、経緯、断りから始めない。
- 一つの段落に一つの話題だけ置く。先頭の文を読めば、その段落が何の話かわかるようにする。
- 見出しは中身を特定する句にする。「背景」「まとめ」のようなラベルにしない。
- 見出しだけを順に読んで話が通るか確かめる。通らないなら、文ではなく構成の問題。
- 箇条書きは、本当に並列な項目を圧縮するときだけ使う。説明と理由づけは地の文で書く。
- 用語と前提は、使う前に置く。読み終えてから補わない。
- 数値、固有名、実例で接地する。一般論しか書けないときは、書き方ではなく材料が足りていない。
4. 削る
- 同じ主張を言い換えて繰り返さない。一つの主張は一度だけ書く。
- 予告を書かない。悪い例:「重要なのは〜です」「本記事では〜を解説します」。主張をそのまま書く。
- 中身のない強調語(非常に、極めて、大幅に、根本的な、本質的な)を削る。
- 読者が自力で補える中間の説明を書かない。
- 具体的に書いた直後に、その内容を要約し直さない。
5. AI が量産する型を避ける
論点を増やさず「ちゃんと書いている感」だけを足す言い回しは使わない。
- 「〜において」「〜の観点から」「〜という側面から」(新しい情報がない)
- 「深掘りする」「言語化する」「向き合う」「正面から扱う」(何をしたかを示さずに終わる)
- 「多角的」「包括的」「総合的」「不可欠」「鍵となる」
- 「さらに」「また」「加えて」の連打
- 「AではなくBです」の対句、決め台詞だけの独立した段落
- すべての節が同じ型(定義 → 例 → まとめ)で進む構成。節ごとに厚みを変える
- 地の文での全角ダッシュ(—)。挿入は括弧に、言い換えは二文に分ける
- 並列を表す中黒(・)。読点かつなぎ言葉で書く。固有名詞の内部で使うのはよい
6. 書き上げたら通す
出力する前に、上から順に確かめて直す。
- 自分で作った語が残っていないか。残すなら、初出で定義したか
- 説明のない業界語・カタカナ語がないか
- 一文が二つ以上のことを言っていないか
- 見出しだけを読んで話が通るか
- 同じことを二度言っていないか
- 削っても意味の変わらない語や文がないか
- 同じ文型が三つ続いていないか
これらは判断の材料であって、機械的に全部当てる規則ではない。元の文章が持つ自然なムラを、一律の書き換えで潰さない。既存の文章を直すときは、直して良くなる箇所だけを選ぶ。